6月に入り、山王会館も無事利用再開となりました。
また教室の授業の様子をお伝えできるようになるとは思いますが、今回は別の話題を。
少し前に、知り合いの外国人の子から敬語の難しさについて、こんな話を聞きました。
「バイトの先輩の○○さんは、2人の時は『敬語を使わなくていいよ』と言う。でも他にたくさんの人がいる時は『敬語を話して』と言う。どうしてかわからない。敬語って難しい」
「敬語」を学習する時は、まず、どんな時に使うのかを説明します。
・先生・会社の先輩・社長といった人(自分より立場が上の人)に使う。
・相手がする行為を自分より高くする。相手が何かをする時は「尊敬語」。
・自分がする行為を相手より低くする。相手を前にして、自分が何かをする時は「謙譲語」。
など、基本的な尊敬語・謙譲語のルールから入ります。
凹凸の上に棒人間を描いて、相手を上げて・自分を下げて…といった説明をよくします。初級日本語の終盤、または中学校の国語で「敬語」を学習した生徒の補講で行う場合も多いです。
しかし、実際日本の社会生活の中での「敬語」という概念はけっこうややこしい。特に初級の「立場が上の人に使う」というポイントだけ学習してきた子は「なんで?」と戸惑うことも多いかと思います。
敬語には、立場の上下の他にも、「ウチ・ソト」の関係性や「親疎」の関係性が存在します。
内・外の関係は、自分が所属する場所(家族・会社)などと、それ以外を分けて考えるということです。
家族に対して敬語は使わない。家の中では「お父さん・お母さん」と呼んでいるのが、学校の先生と話す時は「わたしの父が・ぼくの母が」に変わること。
会社内で、自分の上司と話す時に敬語を使うのは当然のことですが、これが社外の人との電話応対や会話になると、自分の上司には、尊敬語どころか「さん」すらつけてはいけないこと。
これらは、「ウチ」と「ソト」の考え方によるものです。
親・疎の関係は、関係性が親密かそうでないかの判断。あまり親しくない人、知らない人には敬語を使うというのはこの場合です。
そこから派生して、近い距離感の相手から敬語で話をされると、相手に距離を置かれているという印象になります。
わざと距離をとりたい時。喧嘩をしてしまった恋人やご夫婦。様子を伺うように話しかけた彼が、敬語でツンと返す彼女に「ああ、まだ怒ってるな…」と冷や汗を垂らす…という構図もこの場合。
最初に話した子の例でいくと、基本の上下関係と親疎の関係が絡み合ったが故のエピソードになるのでしょう。
年が少ししか違わないバイトの先輩であれば、仕事の場でなければ友達の様に気楽に話して欲しいと思うでしょうし、しかし、公の場ではきちんとした言葉使いでないと困ると言うわけです。
その時の場面ごとに敬意の対象が変わる敬語を「相対敬語」と言います。ウチソト・親疎を一緒にしたり、別の名称を使った分け方をする場合もあります。
この、時と場合に応じて臨機応変に立ち位置を変える敬語の形態を、リアルな場の空気で感じてマスターしろというのはなかなかに厳しい話。
初級を基本としたぐるりっとの授業で敬語を深く学習することは稀ですが、敬語は上下関係だけじゃない、色々な関係性があって、とても難しいものであるということには、なるべく触れるようにしています。
いつか必要になった時に、「これがあの時のあれか」と気づいて欲しい。敬語の荒波に立ち向かって、乗り越えていってもらいたいなと思います。
(N)