「忘れな盆」というのでしょうか、時計やイヤリングや髪留めなど 外したらなくさないように置いておくトレーのことですが、私の化粧台の横にあるそのトレーには、私が持っている中でも最大級のゆびわ入っています。銀色の台に濃い紫の石は5カラット?10カラット?くらいはあるでしょうか・・・ しまう箱もなくて、ずっと以前から置かれたままなのですが、私はそれを見るとなんとなく自分ににっこりしてしまいます。
あるとき、「せんせい~」と女の子が私に渡してくれたのがそのゆびわです。
「えぇ~? いいの?」 「うん」
そのころ「ぐるりっと」では小学校に上がる前の6歳児の授業を始めたばかり。日本の幼稚園に行っている子もおり 日本語ゼロではなかったのですが、幼児に日本語を教えた経験はなく、さらに4~5人一緒なのでまとめるのが大変。10mm程のビーズでひとつ・ふたつと数を数えながらブレスレットを作ったり、(※いち・に・さんとは数えられてもひとつ ふたつは難しい)、お話しながら教室のホワイトボードをお絵描きでいっぱいにしたり。遊びを入れた学習を試行錯誤しながらも子供達と一体になって入学の準備に励んでいたような気がいたします。そんな中での出来事で、大切なものをプレゼントしてくれたのが嬉しくてもらってしまいました。
忘れな盆の中でいろいろな小物にまぎれながらも、その指輪は恩師の言葉も思い出させてくれます。「日本語教師は、日本語を学ぶ生徒にとって多くの場合、最初に出会う日本人です」と。だからこそ信頼される日本人でありたい。日本を好きになってもらいたい。私もそう心に念じて日本語を教え始めました。
プラスチックの指輪は小指にはめても小さくて血流が止まりそうですが、この指輪は その小さな生徒が私の心掛けてきたことの証としてくれたもののような気がして、私へのご褒美かとにんまりしてしまうのです。
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