12月に、大田区で、外国人のためのスピーチコンテストがあります。
今年、当教室から参加しようとしているのは、中学2年生の女の子のMさんです。
スピーチに限らず、作文を描きましょうという時、あまり文章を書きなれていない子は、先生との会話の中からアイディアを探し、一緒に文章におこしていくことが多いです。
おしゃべりは上手な子でも、「今話した通りに書きなさい」と言われて、全く書けない子は多く、「話すのはこんなに上手なのに…」となりますが、やはり書くことと話すことは別なのだと思います。
私自身、母国語の日本語であっても、話す時と書く時は脳みその全く違う部分を使って、文章を組み立てている感覚があります。
外国語ならではの文字や表記の習得が必要な日本語の作文は、生徒にとっては難しい挑戦となることも多いでしょう。
Mさんは、元から文章を書くのが好きなようでした。
夏休みの帰国時に一度、日記を1日分書いてもらったことがありました。
まだ初級の半分程までの学習段階の彼女には、あまりたくさんの表現はできませんでしたが、それでも、とても上手に友達と遊んだ1日の様子をまとめて書いていました。きちんと書くための文章を組み立てることができているのだなと思いました。
今回、スピーチのテーマは、彼女が好きな「あること」についてにしようということになりました。
Mさんの場合は、一緒に話すより、書くほうがたくさんのことを伝えてくるのではないかと思い、まず、どんな形でもよいので、そのテーマについて書いてくるように話をしました。
すると、彼女は母国語である中国語で原稿用紙いっぱいにそのことについて書いてきてくれました。
今まで、一緒に会話をしながら作文を書き上げたことがほとんどだった私にとっては、今回は、今までとは違う流れでサポートをしていくことが必要になりました。
彼女が言いたいことを汲み取り、彼女がそれを日本語で表現する手助けをすること。そして、スピーチとして聞き手がよくわかるように、練習していくこと。
まずは、己の悪筆を呪いながら、タブレットPCに手書き入力で彼女の作文を書き写すところからのスタートでした。
実際に彼女の書いた作文の一つひとつを拾っていくと、弾むような軽やかなさが、文章から伝わってくるような感覚がありました。
好きなことについて話す時、人は饒舌になります。
とてもポジティブな、たくさんの言葉があふれてきます。
Mさんは、とても笑顔が可愛く、とても真面目。時々「え!?」と思う豪快さを見せてくれたりする一面もあります。
もう少し日本語の勉強を続ければ、きっとたくさんのユニークなおしゃべりを聞かせてくれるでしょうが、まだまだ日本語での発話は多くはありません。
辞書や翻訳ソフトを交えてなので、彼女の文章を正確に読み取っているとも言い難いですが、全体の流れから、好きなものについて語る彼女の生き生きとした表情が見えてくるようでした。
好きなものがあるということは、とても素晴らしいことです。
どんなに難しい状況でも、夢中になれる好きなものがあれば頑張れるということ
好きなものへの気持ちが、心を守ってくれるということもあると思います。
日本にやってきた子は、多かれ少なかれ、難しい状況、勉強や学校・習慣に馴染めない寂しさを抱えていることがあります。
それでも、どの子も「バスケが好き」「E-Sportsが好き。プロになりたい」「ファッションが好きだから、学校へ行きたい」など、少しずつ前に進もうと、道を見つけていきます。
その「好きなもの」が、彼女の現在・未来にとってどれほどのものになるかは、はかることができません。
それでも、これだけたくさんの素敵な言葉で語れるものがあることは、本当に素晴らしく、価値のあることです。
今は、なんとかスピーチの流れが決まったところ。練習はまだまだこれからです。
ちょっと難しいかな…と、担当者それぞれ、心配に思うことも。
それでも、彼女は「だいじょうぶ」とやる気を見せてくれています。
彼女の言葉が、たくさんの人の耳に届くように、手助けしていきたいです。
(N)