「日本語ぐるりっと」という日本語教室の特徴は、対象の生徒が児童・生徒(いわゆる子供たち)であることです。 外国にルーツを持つ子供・日本語を母語としない子供・日本にきたばかりで日本語が話せない子供、そんな子供たちに日本語を教えています。
私にとって子供達を教えることは楽しいことですが、大人に日本語を教えるのとは少し異なる工夫が必要です。日本語教授法通りにはいかない臨機応変さと申しましょうか。
私たちの教室で用いる教科書や教材は生徒の年齢になどによって異なりますが、まず導入として「にほんごをまなぼう」という教科書を用いています。(旧)文部省が作成したこの教科書は全頁カラーで学校生活の様々な場面が描かれており、日本語が全く分からない生徒に 挨拶をはじめ学校生活で必要とされている基本的な日本語を指導するのに適しています。 また小学校高学年を念頭に作成されていますが、低学年にも中学生にも対応できる便利さがあります。
友達同士の挨拶は「おはよう」「おはよう」 先生に対する絵には「おはようございます」と。 またひらがながなかなか覚えられなくても、天気や色など簡単な単語を 絵を見ながら学習できます。そして「今日は晴れですか、雨ですか。」等 簡単な質問を聞き取って答える練習をしていきます。
大人の教科書(文法シラバスの教科書)では少し後に出てくる 指示の言葉や許可を求める言い方・禁止の表現ですが、これらは学校の先生がよく使われる言葉ですから 初めのほうに出てきます。 「立ってください」「読んでください。」「トイレに行ってもいいですか」「走ってはいけません」など絵で学習したり、実際に身体を動かしたりしながら理解していきます。 友達同士では「貸して」「あそうぼう」「~したい」「~したくない」等の会話。また身体の部位を覚えると同時に、「痛いです」「どこが痛いですか」と保健室でのやりとりも具体的に声を出して学習します。 場面・状況に適した教え方は生活の中ですぐに応用できますから、子供たちにとって生きた日本語の学習となります。
「にほんごをまなぼう1.」は場面シラバスではありますが、動詞の整理はきちんとされています。 「身のまわり」という課では身に付けているものの名称や、着脱の動詞が「終止形」で 着る・はく・かぶる・着替えるなどが出てきます。 「給食」の課では給食当番の動きを、皿をならべます・パンをくばりますと「ます」の形で。 次の「そうじ」の課はみんなで教室の掃除をする場面が、机をはこぼう・バケツに水をくんでこよう・そうじ道具をしまおうなど「う・よう」の形で出てきます。
そして私はこれらのページを 動詞の活用の言い換え練習にも使っています。
他の教科書で勉強している高学年の生徒達にも、「ます」の形を「ました」や「~ましょう」に言い換え練習 ・「~て」の形を学習すれば、「皿を並べてください」「パンを配ってください」など 言い換え練習ができます。 動詞は一連の動作が1コマ1コマ絵になっていますから、練習問題で短文を書き換えるのではなく、自分の頭で絵に合った動詞を考えることができます。 そして口頭練習を繰り返すことで、「体操服を着ます」「体操服に着替えます」など説明の難しい助詞が自然に身に着きます。
また、その場面々々に必要な基本的な用語が出てきますから、「今週わたし給食…(『当番』が言えない)」とか「来週 かまくら(遠足)」「避難訓練」といったときに、行事や活動の基本的な用語を教え、服装や持ち物の確認などに即対応できるのも便利です。積極的に仲間に入れるよう より興味が持てるよう応援します。
「にほんごをまなぼう」は3冊あり、1.では学校を中心とした生活用語が主ですが、
2.3.は日本語の学習に加え教科学習のサポートになるよう作られています。単位の学習と長さや大きさ比べ・蝶の卵の観察・近所のようす(町の地図)など、たとえそれが生徒の学齢より易しいものであっても 母語で知っている知識を日本語に置き換えることができるのは、安心や自信に繋がります。
教科についていけるようになるまでには時間がかかると言われていますが、私は生徒の好奇心や「わかった」「できる」というような達成感をくすぐりながら、ストレスの少ないより効率のいい授業をしたいと思っています。
日本語を学ぶだけでしたら 文法を理解し語彙を増やせばよいのですが、子供たちにとっての日本語学習は、外国語である日本語から知識を学び育っていくための大切な力です。日常の生活では上手に話せるのに、学校の勉強が分からないと言う生徒が多くいます。
日本語が話せることと、学習に参加できることには違いがあるようです。
日本語ぐるりっとでは早い段階から、「にほんごをまなぼう」や生徒に合わせた教材を用いて、 日本語の基礎を学習すると同時に学校生活や教科学習に対応できるよう努力と
工夫をしています。
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