中国人のT君との授業中でのことでした。
「タンポポの花のわた毛」という言葉が文章の中に出てきた時に、彼は「ん?」と、不思議そうな表情を浮かべました。
「タンポポは、花の名前ですよ。小さくて黄色い花です。」
私がスマホの画像検索でタンポポの花、白いわた毛を見せても、「ああ」とも「へえ」ともなく、変わらず微妙な表情を浮かべたまま。そして、「全然違うね」と、一言。
どうやら、彼の生まれ故郷である中国には、花とは違う別の「タンポポ」が存在しているようでした。
中国の「タンポポ」は、食べ物の名前でした。
パンみたい、でもちょっと違う。味は、甘いのもある。辛いのもある。ソースは色々な味がある。中に具が入っているのもある、ないのもある。僕は好き。でも母は好きじゃない……
食い意地のはった授業後の私は、その食べ物の画像を引っ張り出そうと「タンポポ」という響きをヒントにスマホで検索を試みました。
しかし、どう探してもそれらしき食べ物には行き着きません。
ハルビン・パン・ソース…は駄目。ハルビン タンポポ…いや、パンだから、タンバオか??
そもそも日本語での情報がないという可能性もあります。その場合、漢字表記もピンインも聞いていなかったものだからどうしようもありません。
分からなければ分からない程に、気になって仕方がない。
どうしてもその「タンポポ」が知りたくて、次の授業の時に再度聞いてみることにしました。
タンポポの漢字表記は蛋堡包(dàn bǎo bāo)でした。武漢の食べ物で、中国の東北地方などでもよく食べられるそうです。
漢字が分かれば、検索でどんな食べ物なのかは一瞬で見ることができます。本当に便利な世の中です。蛋堡包は、中に色々な具材が入っている大判焼の様にみえました。美味しそう…。
漢字の判明後に再度日本語でも検索してみましたが、日本語での情報は、やはりほとんど出てきませんでした。いわゆる地方の屋台飯。B級グルメ的なものなので、日本語で情報が発信される程の認知度ではないのかもしれません。
今回の空耳がなければ、おそらく知ることはなかっただろうなと思うと、なかなか貴重な体験でした。
空耳というと、いつも思い出すエピソードがもう1つ。
数年前に教えていた中国人の男の子は、テレビアニメのナルトが大好き。当時人気があった悪役の台詞を格好よく声真似していました。そんなにそのキャラクターが好きなんだねぇ、と話したところ、「好きなのは別のキャラ。このキャラクターは面白いから」と、理由を教えてくれました。
そのキャラクターが呟く「痛みを感じろ」という台詞が、中国語では「米俵、何階に持ってくの?(一袋米扛几楼 yī dài mǐ káng jǐ lóu)」と聞こえるそうです。
当時のアニメ好きな中国人界隈ではかなり有名な話だったそうで。
ナルトをあまり知らない私も、米俵(正確には米袋?)を担いで戦いに来る悪役を想像して、思わず吹き出してしまいました。
まだ授業中のふとした機会に、面白い空耳を知ることができたら良いなと思います。
(N)