大森の“あるお寺”のお祭り行事のお話しを紹介いたしましょう。
今から700年くらい前に、関東地方が大干ばつに見舞われて、大森にある お寺の坊さまにこの非常事態を救ってもらおうと、村中そろって祈祷をお願いしました。雨乞いは上手ではないのでと再三お断りをしましたが、村中のみんなの願いを聞き入れて、お稲荷さまの像を彫り、社を建てて藁で龍神の形を7日間祈祷をしました。
その効果があって、大雨がさんさんと降り、村中がみな驚き喜びました。
しかし2年後には今度は雨が降りやまず田畑はすべて海となり人々は非常に困りました。この長雨は、あのお寺の雨ごいの祈祷をした坊主のせいだと、お坊さんを恨みました。お坊さんは哀れに思って村人を集めて祈祷をすることになりました。三頭の龍の像を彫り、お経を唱え、村人に“水止めの龍像”を冠らせて、笛や太鼓に合わせてほら貝を吹かせて躍らせました。すると黒雲が消えて関東一円に日光が輝き晴わたり、村中で喜びました。
大森地域は、多摩川のデルタ地帯であり、地面と少し掘り下げると泥水がしみだしてくる土地柄でもあり、昔から水はけが悪く水害に悩まされてきたところです。 今でも民族芸能として受け継がれているこのお祭りは「雨乞い」をする儀式と「水止め」をする儀式がお祭り行列の中で同時に行われています。
この話は単に感謝をささげる話としては解釈に難しさを秘めています。最初は、雨が降らないので“雨乞い”をお願いしましたが、その後は“水止め”を同じお坊さんにしています。 わたくし達が日本語を学ぶ過程とよく似ていると思われます。日本語を習い始めたときは「雨乞い」のように“もっと勉強しよう”と知識を雨あられと降り注いでもらえるように熱中しますが、だんだん日本語の習得に慣れてくると「雨止め」のように、“もうやめよう、もっと簡単に教えて”と望むようになってくることもあります。 日本語が早く覚えることが出来ないのは、つまり、雨が降り続けるのは、お坊さん役の先生のせい、にしているのと同じです。 ここでは、日本語の勉強をしているみんなのために、「雨乞い」をしたり、「水止め」としたりすることで 学習者と支援者が一緒になって頑張っています。
このお祭りの伝承行事は東京都無形文化財に指定されて、毎年7月14日に大田区大森東3丁目7番27号 厳正寺(ごんしょうじ)で行われています。 本当のお助けは「雨乞い」なのでしょうか、それとも「水止め」なのでしょうか。いま日本語を学習する あなたは、どっち でしょうか。
※参考:厳正寺 水止舞より抜粋引用
記:Wataru君