最近、五木寛之の「林住期」を読んだ。古代インドの教えであり、人の人生を4期に分けて、学生期、家住期、林住期、遊行期の4期に分けて考える。林住期は50歳から75歳の25年間とのことであり、私は林住期に当たっている。自分がやってきたこと、そしてこれからのことを考えてみようと思う。
以前の話で恐縮だが、私は学生の頃から外国人との交流に関心があった。大学の時に、学生が主催する短期交換学生制度を利用して米国のカリフォルニア州の大学に2か月半滞在した。その経験が私の多文化共生の原点である。
大学米国は人種のるつぼと言われており、そのルーツは中国、メキシコ、日本と様々であった。性格は明るくて、気さくで、オープンな性格は共通していた。初対面であっても親しさを持って接してくれた。これは、男女年齢を問わずで、日本人が初対面では遠慮がちになるが、米国人には余り見られない。恥ずかしがりやの人や、内向的な人や、慎ましやかな人ももちろんいるが、日本人と比べると、オープンであり表現力や表情が豊かだと思う。
毎日、彼らと接することにより、気心も知れてきて親近感を持った。米国人も日本人と同じとあまり変わらないと思う。表現の違い、生活習慣や文化の違いをお互いが理解すればコミュニケーションもスムーズにいくと思った。
大学卒業後、会社に就職しいろいろな地区で仕事をした。その中で花巻に7年間住んだことがある。その時余暇の有効活用で国際交流協会に入会し、花巻市の姉妹都市関係にあったホットスプリングス市の代表団との交流の機会に恵まれた。この時学生時代の交換学生の経験がコミュニケーション上で大いに役立った。ソプラノ歌手と大学の鍵盤学科の先生の韓国系米国人と知り合った。地元の宮澤賢治や北原白秋、山田耕筰の歌を紹介したり、米国人からミュージカル、ミサ曲を聞かせてもらったりした。日本の曲とその表現は「静」で、彼らの曲とその表現は「動」だと思った。控え目な性格で、バッハのピアノ曲のCDを出していたことが後日分かり、今も聞いている。また、その後もメール交換をしており義理堅さを感じ、韓国が近い国であると思っている。
国際関係に興味があった為、定年後は日本語教師になった。留学生は中国、台湾、韓国が多く、ベトナム、タイ、米国、EUからも来ていた。この時も米国での経験が生きたと思う。中国、台湾、韓国からの留学生は、見た目にも日本人と変わらない印象があり、とても身近に感じた。問題意識を持って日本に来た留学生も少なくなく、歴史を勉強し直したこともあった。卒業後も日本の大学、大学院、専門学校への進学や日本の会社に就職を考えている留学生が多かった。
国によっては、日本との関係が必ずしも上手く行っていないケースもあるが、留学生Aさんは個人レベルでは日本に対するマイナスの感情は全く感じられず、むしろ好意的でもある。日本との関係を理解し、改善を望んでおり、日本文化にも関心が高く、日本語にも熱心である為、民間の外交官だと思っている。卒業後もメールをもらうことがあり、それを見ると、その後の成長が感じられ嬉しい瞬間である。
中国からの留学生Bさんは日本語学校卒業、大学での研究活動後会社に就職したが、昨年専門知識を身に付ける為経営大学院に進学したいとのことで、提出物や面接の日本語のアドバイスをした。Bさんは中国出身で意志が強く、課題にも前向きに粘り強く取り組み、卒業後の目標を明確に持っており、希望の大学院に合格した。社会人であることで問題意識も高く、大学院での研究と卒業後のやりたいことが密接につながっており、研究への思いが具体的に伝わった点が良かったと思う。
現在は中国の小学5年生C君にボランティアとしてオンラインで日本語を教えている。
授業の始めに自由に話してもらう時間を設けており、最近、本人からの質問も増えてきている。先日最近の中国について聞かれたことがあり、驚いたことがあった。小学生も中国が出てくるニュースは気になる様で、子供なりに考えた質問だった。
授業は教科書中心であるが、授業集中力が続かず散漫になりがちだ。その為、パワーポイントでイラストを使って説明したり、動画を使って授業に変化を付ける様にしている。文の要約も、得意の絵で書いてもらう等、文章の理解とその表現に工夫している。小学生の場合は、父兄の理解協力も大切だと思い、授業後、父兄と出来るだけ対話をする様にしている。
また、昨年のコロナ感染対策のひとつにマスク着用がある。一般的に海外の人達はマスクそのものに抵抗がある様だ。更にマスク着用によるコミュニケーション上の影響は、日本人に比べ海外の人達にとって大きいと思う。こんなところにも、文化の違いを感じることがある。いずれの場合でも、マスク着用によるメッセージの減少する中で、言葉はその重要性を増していると思う。特に海外から来た子供にとってはその重要性はとても大きいと思う。
これからも、国を超えたつながりを大切にして、日本語を教えようと思っている。子供たちと留学生が日本の生活になじみ、日本に来て良かったと思える様に、少しでも役に立てればと思っている。これらの体験は新たな自分との出会いでもあると思っている。
(TM)