東京都心では都市開発とやらで、古いものを壊し樹齢を重ねた木々を伐採し新しいものを次々と作っている。コロナ禍の下で外出を控え続けてようやく外へ出かけるようになりびっくりすることが続いている。
筆頭は渋谷の駅周辺である。所用で出かけた渋谷は魔界だった。行き慣れた道のはずだった。ハチ公口から出て、あの有名なスクランブル交差点を渡って、あの道を行けばすぐに目的地にたどり着くはずだった。どの改札から出てもすぐにハチ公のところへ出られるはずだった。ところが、「ここはどこ?」状態になってしまった。見覚えのある景色、見覚えのある建物がない。人の流れの中をウロウロし、ようやく見覚えのある交番わきに出た。しばらく来ないうちに様相はすっかり変わってしまったのだった。
そうそう、渋谷のとなり、原宿の駅周辺も変わった。レトロな駅舎はなくなり、いつも混雑していたホームから改札へ出る通路は広くなり人の流れがスムーズになっていた。左側を見れば、駅から表参道を下る道は以前と変わらず大勢の人であふれていた。
右側を出ればそこはもう明治神宮だ。そびえる大鳥居。その奥には深い緑が参道を包んでいる。梅雨の合間の夏のような暑い日であったのにこの神々しいまでの緑の下は涼やかな空気に満ちていた。
明治神宮には素晴らしい菖蒲園がある。今はまさに花菖蒲の季節。「静謐さの中で菖蒲を愛でよう」と訪れるのは万人が思うこと。やはり、ここにも大勢の人。若い人、外国の人々、シニアのご夫婦、様々な人が深い緑と菖蒲と青い空の美しさに魅せられているようだった。まさに和の美が凝縮されている。しかも、今風に言えば神聖なパワースポットでもあるのだ。踏みしめる玉砂利の音、鳥のさえずり。誰もが声を潜めていた。
ここ、神宮の森は周りが変わろうと、誰が訪れようと、今も昔も形を変えない大きな森なのだ。
(トンボ)