日本語のお勉強を始めたばかりのある男の子は、この問いかけに答えることが、まだ難しいです。
「なまえ」の意味がわからないのでしょうか。
耳がまだ、日本語の音を拾うのに慣れていないからでしょうか。
そのどちらもが原因のこともありますが、この子にとってはもう1つ。自分の名前の音が、母国語と日本語で全く違うものだったから…ということがありました。聞き慣れない音をまだ「自分の名前」とは思えず、だからこそ答えることができないのだろうと。
中国からの生徒の場合は、名前の読み方を、日本の漢字の読み表記に変えて登録されている場合と、ピンインをかな表記にしてしている場合に分かれています。日本の漢字読みについては、以前は音読みが多かった印象ですが、最近は訓読みで読ませるパターンもありますし、時には「日本語でもピンインでも、こんな読み方はないのでは…!?」というパターンもありました。
英語のカタカナ語表記の発音の妙さについては、すでに色々と言われている通りで、表音文字とはいえ、実際に耳にする音を文字に置き換えるという作業は結構難しいです。
「ハ」なのか「カ」なのか? 「ベ」なのか、それとも「ビ」なのか…?? スペルを見て「こうなのでは?」と思っても、実際に音を聞くと異なるように聞こえる…ということも。
ひらがなが書けるようになって、自分で「僕の名前はこう」と訂正をしてきた例もありました。ずっと呼ばれる音に違和感があったのだろうなと思い、申し訳ない気持ちになりました。
パスポートや住民登録、学校で登録される名前がどうであるのかということを確認し、一般的に呼ばれる名の音に慣れていってもらう必要はあると思います。
ただ、名前というのはそれ以上に、その人をあらわす大切な響きであります。
以前知り合いの方から、「中国で生活した時の自分の名前はもう1人の私のようで、宝物だ」という話を聞いたことを、今でもとても印象深く覚えています。
その期間・その時間、その人を形取る名がそこに込められている。
大人とは異なり、本人が名前についてのことを選択をしている例は少ないかもしれません。
しかし、日本でこれから生活していく子達にとって、これから日本で呼ばれていく名前の響きが、良きものとして彼らの中に定着していけたら、それは素敵なことです。
最初に日本語の音としてその名を呼びかける私たちは、「名前」を大切なものとして常に投げかけていけたらと思います。
(N)