ある音楽や小説が国を越え、他の表現方法で別の作品に生まれ変わることは少なくない。素晴らしい文化表現はその創造力が認められ、他国にも求められ伝わってゆく。言葉や表現を変え、感性が伝えられる。単なる文字面の翻訳や言葉の通訳ではない、インスピレーションの伝達である。
例えば、1973年にリリースされヒットしたドーンの「幸せの黄色いリボン」は、1977年に山田洋次監督の「幸せの黄色いハンカチ」に生まれ変わった。元々数分の音楽が、2時間近い映画になった。山田監督はこの曲を当時、女優の賠償千恵子さんから紹介されたそうだ。「こんな曲があるのよ〜」って。
デヴィッドリーチ監督が、伊坂幸太郎氏の小説にどうやって出逢ったかはわからないが、彼は2010年発行の日本の小説「マリアビートル」を、去年「ブレットトレイン」というアメリカ映画に変えた。ラストシーンの場面設定は全く違うけれど、そのどちらでも目にする沢山のオレンジ…とレモンに共通の感情が湧く。前述のどちらも黄色い、リボンとハンカチみたいなものだ。このようなことが成り立つのは、言語に関係なく感性の共有ができた結果だ。
「ぐるりっと」では、子どもたちに一日でも早く学校で不自由なく過ごしてもらうために、日本語の基礎や日本の文化を教えている。大人の日本語学習との大きな違いは、子どもたちは語学力とともに感性も同時に育つことだと思う。日本で暮らしながら毎日経験していることが、日本語学習の内容と調和しながら心身に染み付いてゆく。学校の友だちや、周囲の大人たちと触れ合いながら、感性が育まれてゆく。特に言葉で処理できることが少ないからこそ、周囲の状況を捉えるために観察力に頼り、表情や声色や仕草からその人の気持ちを汲もうとする。
そんな子どもたちが、将来バイリンガル、あるいはトリリンガルの大人になった時、言葉だけではない豊かな文化的感性を持ち合わせ、国境を越えてそれを共有させることができれば、とても幸せなことだなぁと思う。
(KogomiK)