日本では春は出会いと別れの季節。
学校に入学する、あるいは進級する四月は、多くの生徒がぐるりっとでの日本語学習を終え、小学校や中学校に入ります。
現時点の日本語能力の不足のため学校の授業について行くのが難しい場合は、一学年か二学年下げて入学・編入することがあります。
A君はぐるりっとで三か月余り、百時間余りの日本語授業を受けました。日本では小学校二年生に当たる年齢ですが、この四月、新一年生として小学校に入学しました。
A君は少し落ち着きがありませんが、明るく、時におどけた動作をしていました。
足し算や引き算ができますし、一般的な知識や理解力もありそうなので、私は二年生に入るのが良いと思っていました。しかしご両親は、他の新一年生とともに入学して、日本の小学生としてスタートしてほしいというお考えだそうで、このようになりました。
本人も入学を楽しみにしている、とご両親がおっしゃったそうなので、なるほど、それも良い選択かもしれないと思いました。
実は私には別の心配がありました。
A君は喧嘩っ早いのです。
生徒の間で優劣を競い合うのはよくあること。上手くできた時の充実感や達成感、褒められた時の喜びは大切ですが、生徒の中にはそれを他の生徒に示して優越感に浸りたいという気持ちが強い子がいます。それは、日本の環境に不慣れで、言葉もよくわからないための不安や不満を埋める行為なのかもしれません。
こういう感情を扱うのは難しいです。
大人であれば我慢し、不安不満は別の方法で解消することもできるでしょうが、子どもはそうはいきません。
A君は些細なことで、あるいは教師には理由が思い当たらない場面で他の生徒にちょっかいを出しました。また、他の生徒の目の前で明らかに侮辱するような態度を取り、相手は当然怒り、A君はダッシュで逃げる、ということをやりました。
授業中も休み時間も何度も注意し、叱りましたが、A君は繰り返しました。
入学間近になり、じっくりしっかり見てくれる先生がついて、A君はやっと少し落ち着いたようでした。
小学校の入学式を終えた今、A君はどうしているかしら。
他の生徒や先生と仲良くやっているかしら。
我慢できずに喧嘩して、仲間外れにされていないかしら。
賢い子ですから、なんとか上手くやっていってくれることを願っています。
そしてもう一つ。 教師の目を盗んで悪さをするような陰湿さが無いところ。(わかりやすい悪さもダメですけど。) それは君の良いところだから、失わないでほしいな。
(SI)